『姑獲鳥の夏』 京極夏彦
京極夏彦氏の百鬼夜行シリーズの第一作目であり、氏のデビュー作です。1950年代の東京を舞台に、古本屋兼宮司兼憑き物落としの中善寺秋彦が、豊富な知識と巧みな話術で人の心にすくう妖怪、物の怪による事件を解決していく推理小説です。姑獲鳥(うぶめ)とは死んだ妊婦が妖怪になったものです。(1994年発行)
■ストーリー
第二次世界大戦後間もない1950年代の東京。売れない三文文士の関口巽は、仕事で付き合いのある雑誌社に勤める、友人の妹、中善寺敦子が、久遠寺産科医院に二十ヶ月もの間子供を身ごもっている妊婦がいるという噂ついて調べていることを知る。関口は敦子の兄であり、帝国大学時代からの友人である中善寺秋彦を尋ねる。明彦は古本屋を営みながら、家業の宮司であり、憑き物落としを行っていて、古本屋の名前から「京極堂」と呼ばれていた。京極堂は関口の話を聞いても別段驚く様子もなく、奇怪だと思うほうがおかしいと理詰めで説く。京極道は帝国大学時代の先輩で、探偵業を営んでいる榎木津礼二郎に相談することを薦める。榎木津は問題の妊婦の夫とは帝国大学時代に同級生だった。
翌日、関口は榎木津の探偵事務所を訪れたが、ちょうどそこに問題の妊婦の姉である久遠寺涼子が、失踪した妹の夫の調査を依頼しに訪れてきた。関口は何故か探偵の助手ということにされ、榎木津と共に久遠寺産科医院に調査に向かうことになる。
■古本屋兼宮司兼憑き物落とし
この世には不思議なことなど何もないのだよ
このシリーズに登場する京極堂はとても魅力的なキャラクターです。人を殺しそうなほど不機嫌な芥川龍之介のような風貌で、朝から晩まで自らが営む古本屋にこもって本を読み続け、家から出るようなことはほとんどなく、非常に理屈屋で妖怪や物の怪というものはまったく信じてはいない。そんな彼が憑き物落としと呼ばれるゆえんは、書物から得た膨大な知識と巧みな話術で、事件を起こす人の心に巣くう妖怪、物の怪といったものを祓っていくから。一見不可解で、妖怪、物の怪が関わっているとしか思えないような事件を、明らかになっている事実と膨大な知識を元に徹底的な理詰めで解きほぐいていく彼の憑き物落としは200ページ以上にわたって書かれ、その過程は実に鮮やかです。京極堂の他にも、多少欝病気味でいつも京極堂の話術に振り回されるぱっとしない風貌の関口、関口とは対照的に躁病気味で奇怪な振る舞いが目立つ大企業の御曹司で眉目秀麗な榎木津、融通がきかず一本気な刑事の木場、聡明で行動力溢れる敦子と、魅力的な登場人物がそろっています。
■妖怪物の怪に関する薀蓄
京極氏は自他共に認める妖怪マニアで、小説の事件に関わってくる妖怪、物の怪については、原典を示してこれでもかというくらいに詳しく書かれています。それはもう妖怪に対する愛を感じるほどです。
この本の冒頭で京極堂が語り、話の鍵となる、「人は見たいものしか見えない」というのは自分にも思い当たることがあります。確かにどうでもいいことや、見たくないものは視界に入っていても気づかなかったりすることがよくあります。しかしこのことを元に推理小説を書きあげるとは、京極氏、凄いです
サイコロ本と揶揄されるほどページ数が多い京極氏の小説ですが、そこには、古来から伝わる伝承を基にした不思議な事件と、魅力的な登場人物達、大風呂敷を広げて最後にきっちりと纏められているストーリーが詰まっています。
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コメント
tkcさん、こんにちは♪
うぶめって読むのですね。知らなんだ・・・
本屋さんではよく目にしていますが、京極夏彦さんの本は読んだことがありません。
きっと気味が悪いんだろうと思うのと本のぶ厚さ(通勤時が読書タイムなので重すぎる本は手首が辛いです)に躊躇していました。
でもお話を窺って、京極堂ってキャラに惹かれてしまいました。面白そうです。
「人は見たいものしか見えない」ですか・・・
究極の怖がりなので、ぜひそうあってもらいたいです (^◇^;
投稿: あばた | 2008年8月 4日 (月) 12時41分
>>あばたさん
怖がりなんですね(笑
姑獲鳥、私は「こかくちょう」って読んでました
百鬼夜行シリーズはストーリーが良くできてるのもありますが、なにより京極堂をはじめとした魅力的な人物が多く登場するところに良さがあると思います。偏屈、奇人、根暗、頑固、方向音痴、昼行灯、老け顔、じじい...こうやって並べてみると酷いもんですが。彼らの愉快でおバカな掛け合いと、奇怪な事件がうまくまとまっていて、独特の雰囲気を創り上げています。
>本のぶ厚さ(通勤時が読書タイムなので重すぎる本は手首が辛いです)に躊躇していました。
分冊文庫版も刊行されているので、電車で読むならそちらの方をお勧めします。
投稿: tkc | 2008年8月 4日 (月) 23時03分