« 『6ステイン』 福井晴敏 | トップページ | 『ホーキング、宇宙を語る』 スティーブン・W・ホーキング »

2008年4月28日 (月)

『プラネテス』 幸村誠

Puranetesu 人類の生活圏が月にまで広がった2070年代を舞台に、夢を追う若者を描いた漫画です。2070年代といっても、世界は人間の生活圏が月まで広がっていること以外は、現在と特に変化はありません。そこにあるのは大国同士の勢力争い、貧富の差、非政府組織のテロ活動、進む環境汚染、企業の競争、愛煙派と嫌煙派の戦い、そして日常を生きていく人々です。
 「プラネテス(ギリシャ語:ΠΛΑΝΗΤΗΣ)」は「惑う人」という意味で英語の「Planet」の語源となっています。地球や衛星軌道上、月で、仕事や家族、恋愛などに惑う人々が描かれています。(1999年~2004年連載)

■ストーリー
 主人公の星野八郎太は民間のデブリ(衛星軌道上にある廃棄された人工衛星やロケットなどのゴミ)回収業社に勤めるサラリーマン宇宙船員。いつか自分の宇宙船を持ち宇宙ビジネスで成功することを夢見る彼は、夢を実現させるための第一歩として地球外開発共同体の木星開発船フォン・ブラウンの乗組員を目指す。

■舞台は宇宙、テーマは愛
 各登場人物に焦点を絞ったエピソードが多いですが、全体を通して話の主軸になるのは主人公の星野八郎太と木星開発船フォン・ブラウンです。

フォン・ブラウンってのは第二次大戦の時
ナチスのスポンサードで
「V2」っていうロケット兵器を開発した科学者だ
大勢の命を奪うそのロケットの試作が完成した時
フォン・ブラウンの仲間の一人がこう言ったんだ
「今日は宇宙船が誕生した日だ」
それから二十数年たって
フォン・ブラウンはサターンロケットでアポロを月に送ったよ
……たぶん俺もそーゆー奴なんだよね
フォン・ブラウンの跡を継ぐ者に
できないことなんて何もねェのさ

 八郎太にとってフォン・ブラウンの乗組員になり、それを足がかりに自分の宇宙船を持ち宇宙を駆け巡ることは人生の全てを掛ける価値のあることであり、その夢を実現させるために必要なのは、どんな困難も独りで乗り越えることのできる絶対的な強さだと信じて努力していきます。しかし、八郎太の職場に一人の新人船宇宙船員、田名部愛が配属されてから状況は少しづつ変化していきます。

宇宙は独りじゃ広すぎるのに

Planetesu_3  八郎太の考え方に対して、田名部はことあるごとに愛が無いとくってかかります。夢を実現するために孤独や不安、恐怖を糧に自分を追い込み努力してきた八郎太にとって、田名部の言葉を受け入れることは自分を否定することにつながります。しかし、なぜか田名部の言葉を拒絶することができない八郎太は、フォン・ブラウン乗組員の訓練を通して、人の存在など意に介さない気の遠くなるほど広大な宇宙と向き合い、そしてその前では無力に等しい自分と向き合うなかで、徐々に田名部を受け入れ変化していきます。

 この漫画の魅力は、衛星軌道上や月面という今の私達にとって非日常的な世界で、日常を生きている人々がしっかりと描かれているところにあります。無重力空間や月の低重力下での力学、宇宙船や宇宙服、月面上の建造物等の描写は精密かつ丁寧で、読者に十分"宇宙”を想像させるのに、そこで暮らす人々の生活はまるで私達の日常のようです。登場人物達はそんなありふれた日常で、泣き、笑い、悩み、恋愛をし、家族を持ち、夢を追っていきます。 人間の知識欲や探求欲は際限なく、それによって科学は進歩し、計り知れない恩恵と害悪をもたらし、世の中は劇的に変化してきました。しかしそこで暮らす人々の営みは今も昔も変わらずに続いており、未来もそうなのでしょう。
 SFといえば敷居が高く感じる人もいると思いますが、宇宙に関する知識が無くても十分に楽しめます。はたして私が生きている間に気軽に月に旅行に行ける日がくるかどうか……、楽しみです。

|

« 『6ステイン』 福井晴敏 | トップページ | 『ホーキング、宇宙を語る』 スティーブン・W・ホーキング »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

コメント

こんにちは♪
SFってあまり読む機会がないのですが、読めば大抵ハマります。
地球からの移住って、今は遠い未来って考えてますが、今の地球を見ていると、案外、近い将来のお話なのかも。
私が生きてる間に月旅行が手軽に出来るってコトにならないかな?

投稿: あばた | 2008年5月 1日 (木) 20時47分

>>あばたさん
今の科学の進歩を見ると、何十年後かには火星は無理でも月になら滞在できるようになるかもしれませんね。

JTBのサイトに月旅行のページがあって、それによると月面着陸はまだ無理ですが、月周回旅行は実現可能だそうです。
旅行期間は一週間ちょっとで、予算は一人あたり一億ドル。
一億ドル……どこの富豪だcoldsweats02

投稿: tkc | 2008年5月 2日 (金) 13時56分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/505926/40985236

この記事へのトラックバック一覧です: 『プラネテス』 幸村誠:

« 『6ステイン』 福井晴敏 | トップページ | 『ホーキング、宇宙を語る』 スティーブン・W・ホーキング »