『羊のうた』 冬目景
先祖代々好血症を発症する血筋に生まれた姉弟と、彼女らを取り巻く人々を描いた漫画です。(1996年~2002年連載)
■ストーリー
舞台は平成の東京都世田谷区周辺、幼いころに母親が死去し、諸事情により父親の元を離れて江田夫妻に養育されていた高校生の高城一砂は、母親の夢を見たことを切欠に、自分の生家を訪ねる。一砂はそこで、漆黒の長髪と病人のような白い肌を持つ少女、実の姉である高城千砂に再会する。
千砂は再会した一砂に対し、父親が半年前に死んだこと、高城家には代々血が欲しくなる病気が発症すること、発病し発作が起きると人を傷つけかねないほどの血を欲する強い衝動に襲われること、母親は発病し精神を病んで死んでしまったこと、父親は発病していない一砂を江田夫妻に託すことによって病気から遠ざけようとしたこと、自分は発病していることを伝える。彼女は一砂に対して愛情は持っておらず他人同然であり二度とこの家に来ないでほしいと告げ、一砂は生家を後にする。
翌日、一砂は所属している美術部での部活動中にえたいの知れない衝動に駆られ、気を失う。発病を自覚した一砂は再び千砂を訪れ、そこからゆっくりと、静かに、確実に一砂の日常が変化していく。
■千砂の愛憎
私を一番理解してくれる人間は父しかいなかったのだし
私はなんの疑問も持たずに父を愛した
例えそれが禁じられたものだとしても
私には関係なかった
話の主軸になる千砂は病気による発作のために、幼いころから人との関係を持つことができず孤独に育ち、発作のたびに自らの血を与えてくれた父親が唯一の心のよりどころとなっていました。彼女は父親に非常に強く依存すると同時に、彼女を死んだ妻の身代わりとして愛し、そして彼女が重荷となって先立った父親に対し激しい憎悪を持ちます。千砂は一砂と再会し、彼が発病したことを知ると、父親が彼女にそうしたように、父親に似た一砂を父親の身代わりとすべく近づきます。そのような千砂に対して一砂も千砂の意図を知った上でなんとか答えようとします。しかし千砂が父親と共にすごした十数年の文字通り血を分けた記憶は、血が繋がった弟といえど簡単に入り込むことができるものではなく、それは終止千砂を苦しめ、病気の発作を抑えるために服用している薬の副作用と合わさって彼女の精神と身体を消耗させていきます。
昭和の香りのする薄暗くも整然とした日本家屋とどこか懐かしい街並みを舞台に、千砂と一砂、彼女らを取り巻く人々の関係が線の荒いデッサンのような絵柄と日本的な間を感じさせるようなコマ割で描かれており、登場人物達の繊細な心の動きや感情の機敏が非常に上手く表されています。
明るい漫画ではないので万人にはお勧めできませが、上記を読んで何か惹かれるものがあった人は読んでみてください。静かで切なく、重く、優しくて残酷な独特の世界観と登場人物達の愛情、憎悪、献身、拒絶、渇望、諦観といった感情に引き込まれると思います。
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コメント
tkcさん、こんにちは♪
ちょっと想像できない世界ですね。
吸血鬼?近親相姦?
そんなありふれた言葉では表現できない何かがあるのでしょうね。
>静かで切なく、重く、優しくて残酷な独特の世界観と登場人物達の愛情、憎悪、献身、拒絶、渇望、諦観といった感情に引き込まれると思います。
引き込まれてみたい気がしてきました
投稿: あばた | 2008年3月26日 (水) 20時39分
>>あばたさん
こんにちは。
この漫画の作者は中原中也の影響を結構うけているらしく、題名も詩集『山羊の歌』の一遍、『羊の歌』からとったそうです。実際、漫画の持つ雰囲気が中原中也の詩集が持つ雰囲気とよく似ているので、もし読んだことがあるならそれを想像してもらえればいいと思います。
>引き込まれてみたい気がしてきました
ここはひとつ引き込まれてみてください
投稿: tkc | 2008年3月28日 (金) 00時13分